多彩チケットやDJイベント…。パナソニックら実行委員の興行力。【ラグビー雑記帳】(向風見也)




 試合が終盤に差し掛かると、場内アナウンスで公式入場者数が「11362人」と発表された。

「その瞬間に、我々としては勝ったな…とは思いました」

 運営に携わった実行委員の1人が言った。

 8月11日、埼玉・熊谷陸上競技場。8月8日からの「グローバルラグビーフェスタ2017埼玉・熊谷」というイベントの目玉企画があった。日本のトップリーグで一昨季まで3連覇を果たしたパナソニックが、国際リーグであるスーパーラグビーのハイランダーズと親善試合をおこなう。

 最大集客数が約15000人といった北関東のスタジアムに、インターナショナルマッチとはいえラグビーの非公式戦で1万人強のファンを集めた。6月中旬頃の時点で売れたチケットが「700枚」だったとあって、実行委員の主要メンバーである村上泰將さんは安どの表情だった。

 地元新聞社や個人のスポーツライターまであちこちに情報を発信し、大会公式フェイスブックページには選手のメッセージをアップし続けてきた。成功裏に終え、「涙が出そうです」と漏らした。

本気は外にあり?

 2015年のワールドカップイングランド大会で日本代表が躍動も、列島におけるラグビーブームは間もなく幕を閉じた。

 大会直後の国内トップリーグでは「前売り券完売」と銘打った試合で空席が目立つなどし、同リーグの公式入場者数は2015年こそ49万1715人にのぼるも、2016年はそれより約3万人も下回った。スタンドには空席が目立ち、主催する日本ラグビー協会(日本協会)は批判が集中するなか「今年は無料券の配布を抑えたから黒字」といった声明を発表。世間との認識のずれまで露呈することとなった。

 2019年のワールドカップ日本大会まであと2年。機運醸成に向けて本気を出したのは、日本協会の外の勢力だった。

 一般社団法人ジャパンエスアールは、スーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズのホームゲームを主催。チームロゴにちなんだ狼の被り物などを販売し、ホームの東京・秩父宮ラグビー場に非日常的な雰囲気を作っている。

 さらに6月6日からの6日間は、港区の関係者が日本協会や関東ラグビー協会を巻き込み「秩父宮みなとラグビー祭り2017」を実施する。

 最終日となる11日には、トップリーグのサントリーとスーパーラグビーのワラターズのフレンドリーマッチを企画。会場となった秩父宮の前のスタジアム通りを一部封鎖し、売店付きの歩行者天国にした。特設ステージでアイドルグループがパフォーマンスをおこなうなど、ラグビーファン以外の層へも訴求した。試合の入場者数は「9848人」と、トップリーグの平均入場者数の約5000人を上回った。

 そして、さかのぼって5月下旬に発表されたのが、今回の「グローバルラグビーフェスタ2017埼玉・熊谷」の開催だった。

 このイベントの実行委員は、埼玉県、熊谷市、埼玉県ラグビー協会、そして群馬県太田市で活動するパナソニックの4者により編成された。会場を管理する行政や一般的な試合運営ノウハウを持つ県協会、さらにはスポーツイベントの娯楽化に積極的なパナソニックが、それぞれの良さを生かして大会を成功させんとしたのである。

「ワイルドパーティーゾーン」とは

 なかでも中心となって動き回ったのは、パナソニックで「国際・企画」という役職を担う村上さんだった。チームではロビー・ディーンズ監督たちの通訳を務める傍ら、関係各所と協議を重ねる。パナソニックからは、元選手でいまは渉外・広報を担当する酒井教全さんもこのタスクフォースに加わった。

 その延長線上で実現したのが、『ガリガリ君』でおなじみの赤城乳業の協力を得た『シャリシャリ君』の会場無料配布の実現、パナソニックとハイランダーズのロゴが入った大会限定グッズの販売だった。

 豊富な席種も用意した。前売り12000円のバックトラック席を買った観客は、試合後に選手たちと記念撮影ができ、その写真を自宅へ郵送してもらえる。同20000円と最も高額な「メイン(指定)おもてなしシート」には、軽食やフリードリンク、両チームのロゴがデザインされた非売品グッズ計5種類、敷地内の駐車場を優先利用できる権利がついてくる。

 逆にゴール裏の自由席は、高校生以下なら500円で買えるなどリーズナブルだった。そのうち北スタンドには、エナジードリンクを販売する企業と二人三脚でDJブースを設置。「ワイルドパーティーゾーン」と銘打ち、踊って、騒げる空間を作った。若年層向けのスペースだ。

 いざ当日、その「ワイルドパーティーゾーン」が耳目を集めた。選手のウォーターブレイクのたびにチアリーダーが水鉄砲を噴射。実際はあいにくの雨に見舞われたものの、予想された真夏日にはぴったりのサプライズだった。キックオフ前こそやや静かだったものの、ノーサイドに近づくほど音楽に合わせた叫び声がボリュームを増した。

 入場者には再入場券の代用品として、蛍光ライト付きのブレスレットを腕に巻いた。スタジアムの外には「牛串」から「富士宮やきそば」まで多種多様なフードが売られていて、キックオフ前からあちこちで行列ができていた。ファンからは、「これくらい楽しければ、少し早めにグラウンドへ行こうという気になる」という声が聞こえた。

 若手中心のハイランダーズを22―7で制したパナソニックの布巻峻介キャプテンは、自然な口調でこう発した。

「皆でこの試合を作り上げたことの方が、勝利よりも嬉しく思っています」

観戦文化の確立へ

 8月18日に開幕する今季のトップリーグでは、熊谷での6試合がパナソニックの興行試合となる。同社が試合前後のイベントなどを企画し、チケット収益は日本協会よりも運営に関わる埼玉県協会に付与してゆく。貯まった予算を、ワールドカップの開催都市でもある埼玉県や熊谷市とともに次戦以降の宣伝や企画に活用したいという。

 ここ数年来の試合運営や成果を見比べると、複数の脳みそで運営方法を考える組織作りがマストなのだと再認識させられる。パナソニックの飯島均部長は、外部団体の力を結集させるべきだと訴える。

「今回はこうやっていろんな席種を販売することで、それぞれのエリアの効果などをフィードバックできる。いままでは協会がチケットを売ってくれないという話ばかりになっていて、我々とのコラボができていなかった。ただ、これからは少しだけでも協力したいという人たちの力をどんどん借りていかないと。一番は、お客様に満足してもらうことです」

 日本協会内にも、トップリーグに向けたビビッドな動画を作るなど意欲的な職員も少なくはない。トップリーグの盛り上げに元プロ選手の瓜生靖治さんが参画するなど、現場レベルからは変革への一手を複数打つ意思が伝わってくる。

 そんななか、同首脳が理事会を経て掲げたスローガンは『BIG TRY』。観戦文化の確立という大目標の実現に向け、動脈硬化と無縁の活動が期待される。




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