アクションビデオゲームのやりすぎは海馬神経細胞の減少を招く(西川伸一)




私たちの世代にとっては、ビデオゲームは画面に侵入してきた宇宙人を打ち落すインベーダーゲームが全てで、その後の進展についていった人は少ないと思う。事実、電車の中でスマフォを見つめゲームに興じている人は学生にとどまらず、広い世代に及んでいるが、65歳以上の高齢者ではほとんど見かけることはない。

インベーダーゲームが導入された当時から、ゲーム中毒が問題になり、長時間ゲームに興じることが、行動を変えるだけでなく、脳自体の変化をきたすのではと心配されていた。

しかしこのような批判をよそにゲーム産業は右肩上がりで成長し、現在の総売り上げは4兆円に迫る勢いのようだ。同時にゲームの内容も多様化し、単純な反射を競うゲームから、記憶、予測、計画などの高次脳機能の必要なゲームまでその幅は広く、”ビデオゲーム”と一般化することはほとんどできなくなっている。従って、”ビデオゲーム”の脳への影響を調べるためには、ゲームをいくつかのカテゴリーに分け、別々に調べる必要が出ていた。

この要望に応えるべく、カナダ・モントリオール大学のグループは、反射を競う相手を打ち倒すアクションゲームと、立体的な認識に基づいて正しい道を選ぶ(スーパーマリオ64が例示されている)3Dプラットフォームゲーム(おそらく私の世代にはチンプンカンプンだろうが、周りの若い人に聞くか、ウェッブで調べて欲しい)それぞれの脳への影響をMRIを用いて調べ、Molecular Psychiatry に発表した(West et al, Impact of video games on plasticity of the hippocampus(海馬の可塑性に対するビデオゲームのインパクト), Molecular Psychiatry, in press, 2017)。

   同じような研究はこれまでも何度か行われてきた。私のブログでも、射撃ゲームが感情障害につながるが、脳自体は運動機能に関わる領域の結合が高まること、あるいは2種類の課題を同時にこなすビデオゲームは高齢者の認知機能を高めること、を示す論文を紹介してきた。

この論文の売りは、

<

p class=”nobr”>1)ゲームを単純に早い反応を競う射撃ゲームと、空間認識に基づく判断力を鍛える3Dプラットフォームゲームを区別して調べている点、

2)ゲーム歴のない学生に異なるタイプのゲームで訓練を行い、それぞれの海馬への影響を見て、因果性を調べている点だ。

研究ではまず、週に少なくとも6時間はゲームに興じる大学生を集め、反射の速さを競うシューティングゲームのプレーヤーと、シューティングゲームでは遊ばないが、同じようにビデオゲームは週6時間以上プレーする大学生のMRI画像を比べている。

結果だが、驚くなかれアクションゲームでほぼ毎日遊んでいる学生では、左側の記憶や空間学習に関わる海馬の灰白質(神経細胞体が存在する場所)が明らかに減少している。

同じ学生さんたちに、彼らが開発した仮想の迷路でプレーさせると、アクションゲーム・マニアは、問題を思考でなく反射で解決しようとする傾向が出ている。

次にビデオゲームをほとんどしない学生を集め、半分にはアクションゲーム、もう半分にはスーパーマリオ64のような3Dプラットフォーミング・ゲームを90時間練習させてMRI検査を行うと、90時間シューティングゲームをプレーするだけで、迷路ゲームでの解決方法が反射型に変わり、なんと海馬の灰白質もはっきり低下することがわかった。一方3Dプラットフォーミングゲームで訓練した場合、同じ海馬の灰白質が増大する。

最後に、アクションゲームに空間認識に基づく判断が必要な場面を組み込んだゲームで同じように90時間遊ばせるという凝った実験を行っているが、結局海馬の脳細胞は減少した。シューティングゲームのインパクトが、他の訓練の効果を凌駕することを示している。

以上をまとめると、単純なアクションゲームは海馬の細胞を減らし、単純思考に陥らせる懸念がある。一方ニンテンドーのスーパーマリオ64のような3Dプラットフォーミングゲームは、海馬の脳細胞に関しては安心して遊べることになる。神経細胞減少という器質的影響があるとすると、やはり若い人のアクションゲームのやりすぎは注意したほうがいいだろう。

最後にゲームにあまり関わりのない私が最も驚いたのが、学生を集めた短期の訓練で脳の器質的変化が誘導されてしまう点だ。人間の脳に関する実験的研究は、よほど慎重にやる必要があることを、研究者はしっかり認識しておく必要がある。




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