健康な人にグルテンフリーダイエットは逆効果である4つの理由 医師解説(福田芽森)



本記事では以下の4点を結論付けています。

1, グルテンフリーは、セリアック病という病気や小麦アレルギーなど、特定の病気の人には効果があるが、それ以外のほとんどの人には体によい証拠はない

2, セリアック病でない人がグルテンフリーを実践しても、冠動脈疾患のリスクが減るどころか、全粒粉摂取量の低下によりむしろリスクを増やす可能性もあり、勧められない

3, セリアック病でない人がグルテンフリーを実践すると、かえって腸内の健康状態を悪くしてしまう可能性がある

4, グルテンフリーは痩身のための食事法ではなく、むしろ栄養バランスを崩す可能性がある

 

健康志向の高いセレブやビジネスマンがこぞって実践している食事法、「グルテンフリー」。モデルのミランダ・カーがダイエットの面から火をつけ、プロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチが体調コントロールとして取り入れたと自著で語ったことで爆発的に広まり、米国のグルテンフリー市場は今や数十億ドルにものぼると言われます。

 

特に日本ではジョコビッチの著書「ジョコビッチの生まれ変わる食事」の大ヒットで「グルテンフリー」を知った方が多いでしょう。試合を棄権するほどの絶不調であった彼が、グルテンフリーにより「神経はさらに研ぎ澄まされ、かつてないほど活力がみなぎるように」なり、「4大グランドスラムを制覇し世界ランキング1位になった」という輝かしいストーリーは、世間に物凄いインパクトを与えました。

 

しかし、この劇的な変化はジョコビッチ本人が「小麦」と「乳製品」にアレルギーを持っていたからこそ起きたのです。ジョコビッチは著書の中で、血液検査を行ったところ「小麦」「乳製品」のアレルギー反応が陽性であったと書いています。「小麦」にはグルテン(を生成するたんぱく質)が含まれており、グルテンフリーの食生活をすれば結果的に小麦を避けることになるため、体の調子が良くなっていくのは理にかなっています。

 

しかしブームに乗って、健康な人、グルテンフリーの必要でない人までがグルテンフリーを実践することは、かえって健康によくない恐れもあります。

 

今、医療界ではグルテンフリーに対して危機感を持っています。

そこで今回は下記目次に沿って「グルテンフリー」について書いていきます。

 

<目次>

1.「グルテン」はよくないもの?

2.グルテン関連障害の人はどのくらいいる?

3.グルテンフリーが向かない人とは?

4.グルテンフリーと心血管リスク

5.グルテンフリーは腸内細菌のバランスを崩す?

6.やみくもなグルテンフリーダイエットは要注意!

7.まとめ グルテンフリーは健康にいいの?

 

1.「グルテン」はよくないもの?

そもそもグルテンとはなにか。

グルテンとは、小麦やライ麦などの穀物から生成されるたんぱく質の一種で、小麦に水を合わせ加工してパンや麺類をつくる過程で生成されます。パンをふっくらと膨らませたり、麺にもちもちした食感を与えているのは、このグルテンです。

 

そして、このグルテンによって、体の不調を引き起こす病気があることも確認されています。これらの病気を総称して、「グルテン関連障害」と呼び、

(1)自己免疫系、(2)非自己免疫・非アレルギー系、(3)アレルギー系

に大別されます。代表的なものをそれぞれ下記に挙げてみました。

 

<グルテン関連障害の分類と疾患例>

(1)自己免疫系:「セリアック病」

(2)非自己免疫・非アレルギー系:「非セリアック・グルテン過敏症」

(3)アレルギー系:「食物アレルギー」

 

この中で、ジョコビッチ選手は前述のように血液検査で小麦に対するアレルギー反応が陽性であったので、(3)に該当するでしょう。

 

(1)のセリアック病は、グルテンに対する異常な免疫反応で腸の粘膜が障害され、十分に栄養を吸収できなくなってしまう病気です。腹痛や下痢、便秘、疲労、気分の不調(不安や苛立ち)などの症状を起こします。血液検査や内視鏡検査で診断され、治療はグルテンフリー食にすることです。

この「セリアック病」である人が、グルテンフリーを実践すれば勿論、体調は良くなるでしょう。

 

(2)は2012年に提唱された新しい病名であり、(1)でも(3)でもないことが必須で、かつグルテンと体の不調の関連が、決められたプロトコルで明らかにされるものです。(※1)

確かに、上の(1)~(3)に該当した場合、グルテンフリーは体に良い効果をもたらすかもしれません。

 

2.グルテン関連障害の人はどのくらいいる?

では、人口に対するそれぞれの割合はどれくらいなのでしょうか。

報告が少なく対象人数も様々ですが、過去の研究をまとめると、全人口に対する割合は下記になります。(※2~10、※11)

 

(1)セリアック病 ごく少数~0.7%

(2)非セリアック・グルテン過敏症(NCGS) 0.6~6%

(3)食物アレルギー 0.2%程度(日本人において)

 

この中に自分が当てはまれば、もしかしたら、グルテンフリーによって体の不調が改善されるかもしれません。

 

3.グルテンフリーが向かない人とは?

しかし、この「グルテンフリーブーム」に警鐘を鳴らす研究もあります。

 

2017年5月、イギリスの権威ある学術誌に、「セリアック病でない人にはグルテンフリーは推奨されない」というリサーチニュースが出ました。(※12)

 

まず前提として、前述の「セリアック病」にはグルテンフリーは効果があり、その効果の一つとして「冠動脈疾患(心筋梗塞など)のリスクを減らす」という研究報告もあります(※13)。しかし、近年のグルテンフリーの大ブームによって、セリアック病でない人もグルテンフリーを実践していることがアメリカでの健康栄養調査でわかっています(※14)。

 

セリアック病でない人にとってグルテンフリーは本当にいいものなのか?

その疑問に対する一つの解答がこの論文なのです。

 

米国の研究者チームは、看護師健康調査に登録された64,714人の女性と、医療従事者追跡調査に登録された45,303人の男性について、グルテン摂取量と冠動脈疾患の関連を、1986年~2010年の間観察し、分析しました。

セリアック病の診断を受けている人は除外し、グルテン摂取量で5群に分け、冠動脈疾患の発症率をみてみると、

 

●グルテン摂取量が最も低い群は、100,000人年で352人の発症

●グルテン摂取量が最も多い群では、100,000人年あたり277人の発症

 

という結果でした。すでに分かっている冠動脈疾患のリスク(BMIや喫煙、血圧、脂質異常症など)を調整しても、グルテン摂取量と冠動脈疾患には統計学的な関連は見られませんでした。

 

セリアック病でない人においては、グルテンを摂る量を減らしても、冠動脈疾患のリスクは減らない、とこの論文では結論付けています。

 

4.グルテンフリーと心血管リスク

一方、この研究では被験者の回答により、グルテンの主な摂取源は、パン(全粒粉)、パスタ、シリアル、パン(精白粉)、ピザでしたが、これらの製品の元は「全粒穀物」と「精製穀物」として分けることができます。

過去のいくつかの研究で、「全穀穀物」が冠動脈疾患の発症リスクや、心血管死亡率を下げることが明らかになっており(※15)、この研究でも統計学的な補正を行い分析した結果、「グルテン摂取量が最も多い群は、グルテン摂取量が最も低い群に比べ、冠動脈疾患発症のリスクを15%下げる」ことが分かったのです。

 

この研究の著者では、「グルテンフリーは本来有益であるはずの全粒粉摂取量を下げてしまうことにつながり、心血管リスクの観点からは推奨されない」としています。

 

5.グルテンフリーは腸内細菌バランスを崩す?

もう一つ、「セリアック病でない人にとってグルテンフリーは悪影響である」可能性を示す研究があります。対象人数が非常に少ないため、説得力が強いとは決して言えませんが、参考に挙げておきます。

 

研究者らはセリアック病ではない、健康的な平均年齢約30歳の男女10人にグルテンフリーを1ヶ月間実践させ、前後の腸内環境について分析しました。

すると、「グルテンフリー実践後はビフィズス菌や乳酸菌などの有用な腸内細菌が減り、免疫機能が下がり、大腸菌などの有害な腸内細菌の異常増殖が起こっていること」がわかりました。(※16)

「グルテンフリーの悪影響」といっても、この研究では実際に何らかの病気の発生率をみるまでには至っていませんし、今後の研究の発展が待たれます。

しかし、ひとまず盲目的な「グルテンフリー」への警鐘として、頭の片隅に置いておいても良いでしょう。

 

6.やみくもなグルテンフリーダイエットは要注意!

そもそもグルテンフリーは「特定の原因による吸収不良の人が、吸収が良くなるようになるための食事治療法」であり、むしろ低栄養から栄養状態を良くするもの。痩身、ダイエットのために開発された食事方法ではないのです。

 

グルテンフリーを実践すると、パンや麺類、スタイルでいえばファーストフードなどを避けることになり、結果的に体重が減っていたということはあるでしょう。もしあなたが普段から過剰に炭水化物やファーストフードを摂取していて、ダイエットをしたいのであれば、グルテンフリーという流行を用いることは良い手法といえるかもしれません。

しかし、グルテンフリーを固く守ることで必要な栄養分がとれず、前述の論文のいうように心臓病のリスクをあげてしまう可能性を考えると、やみくもに勧められるものでもありません。

特に育ち盛りの子供や、ご高齢の方など、栄養が必要な方には、もっとも勧められないでしょう。

 

7.まとめ-グルテンフリーは健康にいいの?

 

まとめると、

1, グルテンフリーは、セリアック病という病気や小麦アレルギーなど、特定の病気の人には効果があるが、それ以外のほとんどの人には体によい証拠はない

2, セリアック病でない人がグルテンフリーを実践しても、冠動脈疾患のリスクが減るどころか、全粒粉摂取量の低下によりむしろリスクを増やす可能性もあり、勧められない

3, セリアック病でない人がグルテンフリーを実践すると、かえって腸内の健康状態を悪くしてしまう可能性がある

4, グルテンフリーは痩身のための食事法ではなく、むしろ栄養バランスを崩す可能性がある

ということ。

 

下痢や便秘、腹痛などの腹部症状に長年悩んでいた人が、グルテンフリーの実践によってすっかり悩みが解決したのであれば、私はそれを否定しませんし、もしかしたらグルテン関連障害であった可能性もあるでしょう。

しかし、グルテンフリーによる弊害や、栄養バランスが崩れてしまう可能性があることなどを考えると、もし本当にグルテン関連障害が疑われるのであれば、医療機関でちゃんと診断を受けることをお勧めします。

 

流行にとらわれすぎず、今の時点での正しい情報を身につけ、自分に合った「食」を楽しんでいただければ、幸いです。

 

 

 

 

 

※元記事「健康な人にグルテンフリーダイエットは逆効果?グルテンフリーの本来の意味とは(BUSINESS LIFE)」を改編

<参考文献>

※1 BMC Medicine (BioMed Central, Springer Nature) 2012 (10:13).

※2 American Journal of Gastroenterology. 2012;107(10):1538-1544.

※3 JAMA Intern Med. 2016 Nov 1;176(11):1716-1717.

※4 アレルギー 55(8/9): 1116-1116, 2006.

※5 J Gastroenterol. 2014 May;49(5):825-34.

※6 日本消化器病学会雑誌 113(suppl-1): 62-62, 2016.

※7 Scand J Gastroenterol. 2013;48:921-925.

※8 BMC Med. 2012;10:13.

※9 BMC Med. 2014 May 23;12:85.

※10 厚生労働科学研究班「食物アレルギーの診療の手引き2014」

※11 (3)は日本の食物アレルギー有病率が推定1~2%程度、食物アレルギー患者2,954人における原因食物として、小麦は12%であることから、1~2%×12%=0.12~0.24%と考え、約0.2%としました。

※12 BMJ 2017;357:j1892

※13 Circulation. 2011;123:483-490

※14 JAMA Intern Med. 2016 Nov 1;176(11):1716-1717.

※15 BMJ2016;357:i2716., JAMA Intern Med2015;357:373-84.

※16 Br J Nutr. 2009;102(8):1154-60

(※2~10の解説)

(1)セリアック病

・ アメリカ人の141人に1人がセリアック病であった(0.71%)(※2)

・ 全米健康栄養調査の22,278人のデータを調べたところ、2009年~2010年では対象者のうち0.7%、2011年~2012年では0.77%、2013年~2014年では0.58%であった(※3)

・ 日本人において、内科疾患患者719人のうち5人(0.7%)、健常者95人のうち0人がセリアック病であった(※4)

・ 日本の過敏性腸症候群の患者172人と、対照群190人を調べた結果、真のセリアック病は0人であった(※5)

・ 日本人で慢性腹部症状のある患者34例においてセリアック病の診断基準を満たすものはいなかった(※6)

(2)非セリアック・グルテン過敏症(NCGS)

・ 米国国民栄養調査で2009年~2010年の7,762人の被験者のうち49例(6%)にNCGSの疑い(※7)

・ 米国メリーランド大学での調査で2004年~2010年の間に観察された5,896人のうち、347人(6%)にNCGSの基準が満たされた(※8)

・ イタリアでの報告で、セリアック病と非セリアック・グルテン過敏症の人の比率は15:1であった(※9)

<

p class=”nobr”>(3)食物アレルギー

・ 日本の食物アレルギー有病率は全年齢を通して推定1~2%程度、フランスで3~5%、アメリカで5~4%に認めると報告あり。また食物アレルギー患者2,954人における原因食物として、小麦は12%であった(※10)




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