【言論NPO座談会】政治は社会保障問題で有効な解決策を打ち出せるのか(工藤泰志)



 言論NPOは、10月22日の衆議院の投票日に向けて、様々な判断材料を提供しています。これまで、民主主義の現状と課題、財政問題の議論を行いましたが、今回は社会保障政策について議論します。

 日本では急速に進む高齢化が進み、この分野は非常に重要な課題です。それは、言論NPOが7月に実施した世論調査結果でも、国民の6割が日本の将来に不安を感じており、その理由として、8割の人が少子高齢化という将来に対して適切、有効な政策が打ち出されていないと不安を挙げていました。

 今回は、社会保障の問題が、今度の選挙でどのように取り上げられ、対策が講じられていくのか、専門家の方々と議論しました。ゲストは、法政大学経済学部教授の小黒一正氏、立教大学大学院特任教授でPHP総研の主席研究員も務める亀井善太郎氏、明治大学政治経済学部教授の加藤久和氏です。

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 まず、司会の言論NPO代表の工藤泰志は、今回の解散の大義について疑問を呈しました。安倍首相が行った記者会見の中で、2019年10月に税率を上げる消費税の使途変更の中で、現役世代に対する社会保障の充実や教育促進という形で、全世代型の社会保障という考えが出てきました。工藤は、政権がこれまで言ってきたことを変え、大義に掲げて選挙をすることの意味、これからの将来を考えた時に持つ意味について参加者に問いかけました。

新しい方ばかりに目を向け、全世代型というのは言葉のごまかし 

 小黒氏は「安倍総理は消費税を2%引き上げて、5兆円の税収をあげ、その1兆円を社会保障、残りを借金返済にあてると言っていた。しかし、今回の記者会見で全世代型ということで、特に子育て、教育に2兆円を使う」としていることを挙げ、これは国債を新しく2兆円増やすのと同じような効果を持つと指摘しました。その上で小黒氏は、今、政権がやらなければいけないこととして、この10年間で26兆円もの社会保障での歳出が増えた結果、116.8兆円(年金50兆円、医療40兆円、介護10兆円)の社会保障経費がかかっており、年金・医療・介護を集中的に改革して、財源を確保しなければならなかったと語りました。加えて、全世代型、子育て支援等は大事だが、新しい方ばかりに目を向けて、古い方をなおざりにするのは、方向感として間違っているのではないかとの疑問を口にしました。

 工藤が「新しい国債というのは、赤字国債に依存する部分を減らそうとしていたのに、それを別のことに使うならば赤字国債と同じ」と、確認するように言うと、亀井氏は、「全世代型という大きな方向性は間違っていないが、なぜそのことが言われるようになったのかを考えるべき。今、全世代とは、まず引退世代、そして現役世代、それから将来世代。日本の社会保障制度は、引退世代に対して大変手厚い制度を構築してきた。それを見直して全世代型にしようという総論は正しい。しかし、今回は小黒さんが言った通りで、増税によってやります、しかし、赤字国債の追加発行と同じようなことをやります、というのは、みんなの負担でやるように見えて、実は将来世代の負担が一番高く、結局問題を先送りする形になる。一番すべきことは、今払っているもの、あるいはこれから払うことになるものを減らすということは、みんな直感的に感じていると思う。そこに手をつけないで、安易な増税で、なんとなく全世代型という言葉でごまかすというのは、よくないなと思う」と手厳しい見解を述べました。

 一方、「全世代型というのは、ばら撒きにつながりやすい」と警告するのは加藤氏。続けて加藤氏は、「幼児教育の無償化はいいことだが、どんどん広げていくと、社会保障なのか、単なる再分配なのか、ばらまきなのか、区別がつかなくなってくる。また、2%上げた分の一部で借金の返済をするという言い方をしているが、これは正確な言い方ではなく、『借金の返済』ではなく、『将来の世代の負担を減らすために』という使い方をしているんです。単純に借金の返済をしないで若い世代にお金を渡す、ということになると、結局その人たちが負担することになるわけですから、負担の面では何にも変わっていない。そういうレトリックにならないように、お金の動きというものを見なければいけない」と、注意を呼びかけます。

社会保障のコンセプトを変え、本当の困窮者への税金の集中投下――拡大だけでは財源が足りなくなる

 全世代型と将来世代の負担などを考えると矛盾が出てきます。では、どうしたらこの問題の辻褄を合わせることが可能なのでしょうか。

 これに対して小黒氏は、「一番重要なのは社会保障のコンセプトを変え、全世代型で本当に困っている人だけに税金を集中投下し、無駄のない税金の使い方を追求すべき。なんでもかんでも拡大していくと、財源が足りなくなる」と指摘。

 亀井氏は、「今の社会保障制度は、年をとるほど自己負担割合が減るように出来ている。かつては 高齢者は弱者であるという考え方だったが、いまや金融資産の分布を見れば高齢者は必ずしも弱者ではない。所得はないかもしれないが、資産がある人の医療費の負担割合は今のままで本当によいのか、今、本当の弱者は誰なのかという社会的合意を得るプロセスが必要で、社会保障制度そのものを変えていかなくてはいけない」と厳しい見方を示しました。さらに亀井氏は、「団塊世代が後期高齢者に入る2025年問題。医療・介護費が上がり、支え手の生産年齢人口ががくんと減る。お金がかかるものを誰が支えるのかという議論と、我々一人ひとりが何人もの要介護者を支えながら、あるいは子育てをしながら生きていかなくてはいけない。そういう社会になる準備が我々は出来ているのか、といえば出来ていない。そういう話が今回の選挙で出てこないといけないが出てこない。それがかなり大きな問題だと思う」と、将来への無策を嘆くのでした。

 工藤は、「安倍政権に関わらず、いつも選挙のための政策というような感じがする。選挙の時だけ話題にして、その後ちゃんと体系化するわけでもなく、あとから工程をゆっくり考えるとか。この仕組みはどうですか」と、付け焼刃的な公約のあり方を問題にしました。「政治全体の問題だ」と批判するのは亀井氏です。「責任は、野党とメディアにある。今、言った問題をきちんと真面目に取り上げていない。ここら辺の話はもう既にほとんど出ている話で、ちょっと考えれば、誰にでも分かる話。それを野党が真面目に取り上げずに、なぜ、これだけ大事なことをこれまで無視してしまったのか。逆に言えば、安倍政権のある種の怠慢を許してしまった。政権が批判されるのは当然だし、野党も批判されなければならない」と、政治に対する追及の口調は止まりません。

近い将来、低年金の貧困女性高齢者出現?

 安倍政権が選挙で国民に約束した、「若者も高齢者も安心出来る年金制度を確立する」という話は、本当に確立出来る方向に向かっているのでしょうか。

 小黒氏は、「専業主婦で大企業に勤める夫がいるような家計モデル年金というのがあり、この所得代替率は約62%。それが40%台になってしまうケースが2040年ぐらいに出てくる。モデル年金世代というのは結構いい生活をしているから、年金分布で見た場合、かなりの低年金の人たちが出てくる。その時、高齢者になる今の4、50代の女性の人で、これから未婚の人も増えていくから、低年金の貧困の女性高齢者が出てくる。モデル年金の給付水準ではなくて平均の年金の分布、そして2030年、2040年はどういう分布になるのか、そういうのを見た上で制度設定をすることが、本来国会に求められていることだと思うが、そういう議論も進んでいない」と不安を述べます。

 小黒氏の意見に賛同した上で亀井氏は、「働き方改革というのは、今、残業の話などが出ているが、私たち世代は子育てを終えた後、否応なく介護をしなければいけない。そんな時に会社に週5日行っている場合じゃない。父親、母親、義理の父親、母親も倒れ、4人介護しなければいけないというようなことが同時に起きる。そういう中で、今までの働き方でいいのか、という議論を今から始めなければ間に合わない。働き方を柔軟にすることによって、そういう社会を一緒に引き受けて行きましょうよ、ということにしていく。2025年まであと僅かしかないのに、そういう議論がされない。その話を政治が取り上げないというのが本当に問題だと思う」と指摘しました。

賢い有権者は、危機に瀕している民主政治を見抜いている

 「社会が変わろうとしている。その変わろうとしている社会の中で、今の仕組みが良いのか悪いのか、そういった議論がないと踏み込めない」と言うのは加藤氏です。続けて加藤氏は、「もちろん個々の改革も必要だが、我々はどこに進んでいくのか、みんなでどう負担していくのか。そういう議論なしに、政治の目の前の論争でお仕舞いにされてしまっては、日本は破局に向かってしまうのではないか」と深刻な事態を推測します。それを受けて、亀井氏は、「今の権力闘争は本当に醜い。それには相当嫌気がさしているはずで、私は、有権者は賢く判断しているんだろうなと思うし、今、この議論を見ている方はそれを見通していると思う。今、デモクラシーが危機に瀕している。これを組み立て直せるかは、そこにかかっている。今回は、むしろ有権者が問われている」と、有権者の覚悟に期待し、亀井氏は言葉を続けます。

政治は哲学と先見性を語れ

 「私は、政党が哲学を持ってほしい。これからの社会はどうなるのか。社会保障というのは、どう生きてどう死ぬか、個人にとって一番大事なことだ。これを、みんながどう支えるか、あるいは政治を通して、どう支えるか。社会を通じて支え合うということもある。実は、これが最も大事な哲学だと私は思う。これを語れる政治家が本当にいるかどうか。私はいると思っているが、そういう人たちがもっと声を出していける政治にしていかなければいけないし、政党そのものも、そういう議論が出来ないといけない」と、政治、政治家の姿勢に求めるものを話しました。

 続けて小黒氏がフォローします。「亀井先生のおっしゃる通りで、そこが一番重要なのだが、やはり前提条件の財政の現状などのファクトを整理する必要がある。これまでは成長に期待した増税分を使って社会保障をやっていたわけだが、もうこれは限界にきている。そこについての認識もきちっと共有していくのが重要で、そこに哲学が出てくる」と語りました。

 加藤氏も頷きます。「哲学は大事だ。あとは先を見る力。我々の寿命が延び、社会全体が変わっていく中で、先を見た形でビジョンを提示できる政党でなければいけない。哲学と先見性がなければ政治は語れず、我々の生活を良くするということが出来ないと思うので、それには期待したいが、果たして期待していいのかよくわからない」と皮肉まじりに語り、政治に求められる姿勢やビジョンなど本質的な議論にまで話題は及びました。

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p class=”nobr”>▼さらに詳細な議論については下記からご覧ください

 http://www.genron-npo.net/studio/2017/10/npo_7.html




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