教師の過重労働も、子供の基礎学力定着も、中学受験生の睡眠不足も解決する、コロンブスの卵的発想とは?(おおたとしまさ)



渋谷区が貧困家庭に塾クーポンを給付

 渋谷区が2018年度から、貧困世帯の中学3年生を対象に塾で使えるクーポン券を支給すると発表した。資金はクラウドファンディングで集めるとのこと。(※1)

 貧困家庭を対象に塾などで使えるクーポンを給付するというしくみについては、すでに2012年から大阪市の西成区からはじまり、現在では大阪市全域に広がった実績がある。

 貧困家庭の子供に学校以外での教育の機会を与えるしくみとしては、自治体による公営塾、民間有志による無料塾、そして今回のような塾用クーポンなどがある。(※2)

 塾クーポンという新しいしくみによって渋谷区の貧困家庭の子供の選択肢が増えたことは、ひとまず前向きに捉えたい。

本当に支援を必要としている子供の実情

 公営塾、無料塾、塾クーポン。いずれも「学校だけでは教育機会として不十分」という認識に立脚した発想だ。特に都市部においてはその認識を否定することはできない。

 ただし、家で勉強を見てもらうこともできず、学校の勉強すらままならない子供に、塾クーポンを手渡しても、根本的な問題解決にならないことも十分に考えられる。

 そういう子が仮に塾に行っても、進学校を目指して勉強しているような子供たちのレベルにはついていけず、むしろ自己肯定感を下げてしまう可能性だってある。そういう子に塾クーポンだけを渡しても、効果は限定的だろう。

 家庭環境ゆえ学校の勉強すらままならない子供こそ、まず支援されるべき対象であって、そこへのソリューションが塾クーポンだとしたならば、心許ない。

基礎学力がままならない子供への個別ケア

 学校と塾のハイブリッドな教育環境があることは日本の教育システムの実は強みである。原理の異なる2つのシステムがお互いの弱点を補完することができるからだ。(※3)

 塾の存在を前向きに捉えるなら、教育のすべてを学校で担うべきという発想からいっそのこと脱却してみる思考実験を行ってみてもいいのではないか。

 たとえば公立の小中の授業コマ数を思いっきり削ってしまう。授業は午前中のみ。給食を食べて掃除をしたら下校。もっと学びたい子供は塾や公文に通う。そうすれば現在の教師の過重労働問題もすみやかに解決に向かうだろう。

 当然学力低下が懸念される。そこで、家で勉強を見てもらうこともできず学校の勉強すらままならないような子のために、午後、そのまま学校で個別にしっかり面倒をみてもらえるしくみを整える。放課後の個別補習だ。地域のボランティアの力を借りることもできるだろう。

 クラウドファンディングでお金を出すのもいいが、自分の身体と時間を提供することもできるというわけだ。

中学受験生の睡眠時間が増える!?

 学校の授業時間を大幅に削減し、全員に共通の宿題も最低限にすれば、すでに塾に通って学校よりも高いレベルのことをどんどん学んでいる子供たちの負担も減らせる。

 現状では、すでに塾で高い学力を身に付けた子供も、簡単すぎてやる意味の感じられない学校の宿題を一律にやらねばならず、そのために塾の後、睡眠時間を削らなければいけないという無駄も生じている。

 学校が早く終わると、中学受験塾が14時から授業を始めたりするのだろうが、そのぶん早く帰れるようにしてくれるなら、それもありではないか。

小渕政権の「21世紀日本の構想」で予言

 現在の教育を取りまく様々な歪みを正すために、学校の授業時間を大幅に減らす。コロンブスの卵のような話であり、あくまで思考実験であり、学童問題や部活問題など別の課題も生じることは予測できるが、かといってあながちファンタジーでもない。

 1990年代後半には実際に「学校のスリム化」が議論されたこともある。小渕内閣の「21世紀日本の構想」懇談会報告書(※4)にはまさに上記のような提言が盛り込まれている。

 そこにすでにクーポン制度の提案が書かれており、それにともなう運用上の課題や原理的な課題にも触れられているので、今回の新しい塾クーポン制度について議論を進める場合にも参考になるはずだ。

※1 貧困家庭に塾クーポン 渋谷区、来年度から(日本経済新聞)

※2 無料塾についてはこちらの記事を参照のこと。「塾に通えない子供たちにも学びのチャンスを!ルポ 無料塾奮闘記」。公営塾については拙著『進学塾という選択』に記述あり。

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p class=”nobr”>※3 学校と塾の相補的教育システムについては拙著『進学塾という選択』に記述あり。

※4 小渕内閣「21世紀日本の構想」懇談会報告書のP104-106に記述あり。




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