外科手術の腕に男女差はない(西川伸一)




熊本大学、京都大学の医学部で20年近く教授を務めたが、教授会に女性の外科教授はいなかった。

少し古いデータだが、昭和24年の統計では、全医師の中の女性の比率は19%になっているのに、一般外科医で7.1%、脳外科医で4.9%、整形外科医で4.4%に止まっている。要するに、様々な理由で労働条件が悪い外科が女性から敬遠されている。しかしこれはわが国だけの問題ではないようで、女性医師の比率が高い米国やカナダでも、同じように女性の外科医は少ない。

問題はこの状態が続くと、女性の外科医は男性より腕が落ちるという先入観が根付いてしまうことだ。調べたことはないが、おそらくこの先入観を持っている一般の人は多いのではないだろうか。さらに、男性医師の間にも同じような先入観はあるのではないだろうか。とするとまずこの先入観が正しいのかはっきりさせることが重要だ。

ちなみに、では私はどうかと考えてみると、女性外科医すら想像できない世代に属しており、問題外の世代だ。

この問題に、トロント大学の外科レジデントが取り組み、25種類の一般的外科手術の成績を男性と女性の医師で比べた調査を10月10日号のBritish Medical Journalに発表した(Wallis et al, Comparison of postoperative outcomes among patients treated by male and female surgeons: a population based matched cohort study(男性と女性の外科医に手術を受けた患者さんの術後の経過の比較:住民に基づいた症例対照研究), British Medical Journal, 2017: 359:j4366 doi: 10.1136/bmj)。外科のレジデントが重要な問題に気づき、忙しい仕事の合間によくまとめたと、大学で教えていた私としては褒めたい気持ちで思い取り上げた。

調査は、2007年から2015年までオンタリオ州で行われ、公的、私的な保険請求により、誰が執刀医であるかが追跡できる手術の中から、ほとんどの外科領域カバーする25種類の手術を選び、手術後30日までに、死亡、合併症、再入院などの問題の発生の有無で手術の成否を判断している。

選ばれた手術は虫垂炎のような簡単なものから、脳腫瘍手術、股関節置換術まで広い範囲にわたっており、男女を正しく比較できるよう設計されている。カナダの場合、約2割の手術が女性により行われている。とはいえ、脳外科、心血管外科手術や泌尿器外科手術などは女性が執刀者である率は極端に低く、男女が同じように働いているとは言い難い。従って、データ解析も、手術の種類の男女の偏りが反映されないように補正が行なわれている。

さて結果だが、補正前、補正後を問わず、男女差はほぼない。各外科分野で見ても、耳鼻咽喉科を除くと、女性の方が若干成績が良いようだ。特に、形成外科では圧倒的に女性医師の結果が優れている。従って、女性は外科に不向きというのは間違った先入観であることが示された。

今年の2月、JAMA Internal Medicineに高齢者の医療処置後の合併症は、女性医師にかかった方が少ないという論文が発表され話題になった(JAMA Internal Medicine, 177:206, 2017)。ただ、内科の治療は主治医が決まっていても、チーム医療の程度が強い。これに対して、外科の場合執刀者ははっきり決まっているので、今回の結果はより能力の男女差を反映していると言えるだろう。

もちろん、同じ手術でも難易度は違う。男性優位の歴史が長いと、難しい手術は経験の豊富な医師が行うことになり、結果を左右されてしまう。従って、今回対象になった症例のさらに詳しい検討が必要だと思うが、このようなエビデンスを重ねることが、女性外科医を増やす第一歩になる。今後もこのような調査を繰り返し、地道にこのような先入観を取り除くしか、女性に外科の方を向いてもらうことはできない。男性医師も、今のままでいいと居直らないで、出産、育児の可能な労働環境整備を女性とともに要求し、多くの女性外科医を受け入れる努力が必要だ。医療現場でこのまま男女差が続くようだと、女性の輝く社会など絵空事で終わる。




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