LVMHの大型人事異動でクリスチャン ディオールのトップが交代 次期社長兼CEOの実力は?(藪野淳)



 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」「フェンディ(FENDI)」など数多くのラグジュアリー・ブランドを擁するLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH)は11月8日、来年初めに実施する人事異動を発表した。シドニー・トレダノ(Sidney Toledano)=クリスチャン ディオール クチュール社長兼CEOが約20年間務めてきた同職を退任し、ピエトロ・ベッカーリ(Pietro Beccari)=フェンディ会長兼CEOが後任に就く。トレダノ氏は、「セリーヌ(CELINE)」や「ロエベ(LOEWE)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」「ケンゾー(KENZO)」「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS」などのブランドを管轄するLVMHファッショングループの会長兼CEOに就任。これまで同職を務めてきたピエール・イヴ・ルーセル(Pierre-Yves Roussel)氏は、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOの特別顧問に就く。

トレダノ社長兼CEOは“「ディオール」の成功の原動力”

 フランスのバッグブランド「ランセル(LANCEL)」で10年間マネジング・ディレクターを務めたトレダノ現社長兼CEOは1994年、レザーグッズのディレクターとしてクリスチャン ディオール クチュールに入社。翌年にはアイコンバッグ“レディ ディオール”の開発に携わり、大きな成功を収める。その後、国際展開のマネジング・ディレクターを経て、98年に現職に就いた。彼が就任したのは、ちょうどジョン・ガリアーノ(John Galliano)がクリエイティブのトップを務めている時だ。

 99年にはファインジュエリーをローンチし、さらに2001年にはエディ・スリマン(Hedi Slimane)を起用してメンズライン「ディオール オム(DIOR HOMME)」をスタート。スリマンの打ち出したスキニーシルエットのスーツやデニムは当時のメンズファッションの流れを一変させ、一躍メンズシーンに欠かせないブランドになった(07年からはスリマンに代わり、クリス・ヴァン・アッシュが同ラインを手掛けている)。

 一方、「ディオール」では、11年に人種差別発言の嫌疑にかけられたガリアーノを解雇。その後起用したラフ・シモンズ(Raf Simons)はモダンでアーティスティックな世界観を打ち出すも約3年半でブランドを去り、16年7月にはブランド初の女性アーティスティック・ディレクターとしてマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)を抜擢した。ビジネスにおいても世界主要都市への旗艦店出店や、直営展開へのシフト、中国市場への参入などの戦略で、年間20億ユーロ(約2660億円)近くを売り上げる巨大ブランドへと導いた。

 退任発表に際し、アルノーLVMH会長兼CEOは「シドニー・トレダノは、クリスチャン ディオール クチュールの世界的な成功の原動力だ。これまで25年にわたり、彼はクリスチャン ディオール クチュールを格別なメゾンに発展させ、才能豊かなデザイナーたちを通じてメゾンのエレガンスと現代性を促進するという素晴らしい功績を挙げた。彼に深い感謝を示すとともに、これからも一緒に仕事をし、彼の培ってきた専門知識の恩恵を受けられることを嬉しく思う」とコメント。今後LVMHファッショングループに属するブランドに、彼の知識やノウハウを注ぐことができるメリットは大きい。

後を継ぐピエトロ・ベッカーリ=フェンディ会長兼CEOとは?

 イタリア出身のベッカーリ=フェンディ会長兼CEOは美容業界を経て、2006年にルイ・ヴィトン マルティエに入社。マーケティング&コミュニケーションの要職を務めた後、12年2月に現職に就任した。まず比較的手頃な価格であったズッカ柄(Fを組み合わせて並べたプリント)のバッグをなくし、ラグジュアリー路線を推進。その一方で、クリエイティビティーや新しいアイデアを理解し尊重する同氏は、コレクションを手掛けるカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)とシルヴィア・フェンディ(Silvia Fendi)と共に、いくつもの斬新なアイテムを市場に送り出してきた。

 

 ブランドのルーツではあるがコートになると一般人には手の届かないファーは、コミカルなモチーフのチャームとして提案。レザーバッグでは、定価20万円以上が当たり前になっていた時に15万円前後の新作を投入して人気を博した一方で、繊細な職人技を駆使した高価格帯アイテムも拡充した。また、バッグに付け替えられるデコラティブなストラップやソックスと一体化したシューズなどもいち早く打ち出し、ややコンサバなイメージからトレンドをけん引する存在に押し上げるとともに、“遊び心溢れるラグジュアリー”というユニークなポジションを確立した。その結果、ミレニアル世代をはじめ顧客層の拡大にも奏功し、売上高10億ユーロ(約1330億円)を超えるブランドへと成長させた。

 また、創業の地であるローマとのつながりを強化してきたこともベッカーリ会長兼CEOの実績の一つだ。13年にはトレビの泉をはじめとする歴史的な噴水の修復プロジェクトを始動。同年10月にはブランド名の下に「ROMA」を加えたデザインにロゴを変更した。また、15年10月にローマを代表するイタリア文明宮に本社を移転。ローマ本店にはブティックホテルとレストランを併設するなどライフスタイル提案にも力を入れ、市内の公共スペースにアート作品を展示するプロジェクトも進めてきた。

 奇しくも現在「ディオール」を手掛けるキウリはローマ出身で、元々は「フェンディ」で10年間働いていた経歴を持つ。相通ずるものがありそうな2人のイタリア人はどんな化学反応を起こし、フランスを代表するオートクチュールメゾンをどのような方向に導くのか?アルノー会長兼CEOも「ピエトロ・ベッカーリの任命はクリスチャン ディオール クチュールの新時代を告げる」と語るように、“新たな時代”の幕開けに期待したい。


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