単身オサマ・ビンラディン捕獲作戦を展開した破天荒男の実話をニコケイが熱演『オレの獲物はビンラディン』(紀平照幸)



 ニコラス・ケイジというのは不思議な俳優です。いちおうアカデミー主演男優賞に輝いている(95年の『リービング・ラスベガス』)にも関わらず、最近の映画では演技パターンが大きく分けて二つしかない。不機嫌な表情で眉間にしわを寄せ“この世の不幸を一身に背負ったような”深刻な演技をするものと、逆にハイテンションで何かにとりつかれたようなキレた演技を前のめりで見せるもの。この『オレの獲物はビンラディン』では、後者のニコケイがたっぷりと味わえます。

普段はだらしない生活を送っているゲイリー
普段はだらしない生活を送っているゲイリー

 2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが勃発。それから数年後のコロラド州の片田舎では、一人の中年男ゲイリー・フォークナー(ケイジ)の不満が爆発寸前でした。敬虔なキリスト教信者で愛国心にあふれたゲイリーにとっては、テロの首謀者オサマ・ビンラディンの潜伏先をいつまでたっても見つけられない政府が許せなかったのです。そんなある日、日課の人工透析中、彼の前に神(ラッセル・ブランド)が現れ、啓示を与えました。「パキスタンに行って、お前がビンラディンを捕まえるのだ」

なんとゲイリーの前には神様が!
なんとゲイリーの前には神様が!

 アメリカを救えるのはオレしかいない! 使命感と愛国心を燃え立たせたゲイリーは、さっそくビンラディン捕獲作戦を開始するのですが…。

 信じられないことに、これは実話。ゲイリー・フォークナーは単身ビンラディンを捕まえるべく、7回もパキスタンに入国した人物で、最後はパキスタン当局に拘束されたことで全米のメディアがこぞって取りあげ大きな話題になりました。ケイジは彼の白髪やヒゲ、太った体躯などを再現、話し方や声質さえも似せています。映画の最後には本人も登場するのですが、それを見れば製作陣が「この役を演じられるのはニコラス・ケイジしかいない!」と思った理由が納得できるはず。

 ともかく相手の話をろくに聞かず、自分の言いたいことをほぼノンストップでがなりたてるケイジの演技は強烈で、約90分の映画をずっとこのペースで突き進んでいくのですから、観ていてお腹いっぱいになるのです。これぞニコケイの持ち味そのもの!

 それにしてもゲイリーの計画は無茶苦茶です。資金稼ぎにラスベガスのカジノで一攫千金を狙い、病院の主治医を騙して寄付金をつのり、武器として日本刀を調達、サンディエゴからヨットで単身出航しようとするのですから(もちろん、うまくいくわけがない)。周囲はそんな彼を心配しますが、本人はいたって真剣。

 何度もの失敗とあらゆる困難を乗り越えて、ようやくたどり着いたパキスタン。しかし、こちらでも波乱が待っています。意外にフレンドリーな現地の人々との交友。目的を見失ってドラッグに溺れ(そもそも、やみくもに歩き回るだけでビンラディンが見つかると思っているのがどうかしていますが…)、人工透析もやめたため体調を崩し、やがては現地のCIAにも目を付けられてしまうことに…。

 監督はサシャ・バロン・コーエン主演の偽ドキュメンタリー映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』で注目されたラリー・チャールズ。脚本を一切使用せず、現場で起きる偶然性を重視する監督だけに、今回も彼独特の、毒と批判精神にあふれた破天荒なコメディに仕上がっています。

『バーディ』のモディーンとケイジのコンビが久々に復活
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 CIA職員役にレイン・ウィルソンとデニス・オヘアという個性派を配し、セリフの中に映画に関する小ネタを散りばめるなどサービス精神も旺盛。主治医のロス医師にマシュー・モディーンをキャスティングしたのも遊び心の一環でしょう。なにしろモディーンとケイジは84年の名作『バーディ』で友人役で共演した間柄。しかもあの時は常軌を逸していくモディーンをケイジが心配するという役どころだったのですから。

 さて、その後のゲイリーはと言うと…。2011年にオサマ・ビンラディンが米軍により殺害された後、自分の探索行が作戦成功の助けになったと主張、政府は自分に対し懸賞金を支払うべきだと訴えました。いやはや…。

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p class=”nobr”>(『オレの獲物はビンラディン』は12月16日から公開)

配給:トランスフォーマー

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