母親のNK細胞が胎児を育てる(西川伸一)



NK細胞について物知りの日本国民

免疫学者にとっては馴染みが薄くても、我が国では、NK細胞はよく知られている細胞の一つではないだろうか。実際ブックサイトで調べると、「NK細胞でガンと闘う」といった本が何冊も検索できるし、例えば乳業メーカーのサイトでNK細胞とタイプすると、NK細胞活性増強乳酸菌といった記事が提供されている。他にも、笑うと健康にいいのはNK細胞が活性化されるからと伝える本まで一般向けに出版されているのを見ると、日本人はNK細胞について最も詳しい国民ではないかとさえ思う。(もちろんここに引用した話の真偽については私は確かめたことはないのでコメントは差し控える)

NK細胞が胎児を育てる

しかし、NK細胞についての物知りが多い我が国でも、さすがにお母さんの子宮内に居ついているNK細胞が、胚の子宮への着床を助け、胎児の発生を助けるとは考えもしなかったのではないかと思う。こんなアッという話を、中国安徽大学の研究グループが12月19日号のImmunityに発表した(Fu et al, Natural Killer cells promote fetal development through the secretion of growth promoting factors(NK細胞は成長促進因子を分泌して胎児の発生を促進する), Immunity: 47:1100-1113:https://doi.org/10.1016/j.immuni.2017.11.018

最初、またウケ狙いの論文かと読み始めたが、なかなかしっかりした研究で、NK細胞物知り大国としてはリストした方がいいと思い紹介する。

研究の概要

この研究は、妊娠初期に子宮内のNK細胞数が上昇し、完全な胎盤が形成されるとその数が減るという現象に着目し、この増加が胎児発生に必要ではないかと着想した事に端を発している。

着想してしまえば、NK細胞は最も研究が進んだ細胞の一つだ。可能性を確かめるための道具や研究手法はほぼパーフェクトに揃っている。あとは実験を重ねて可能性を確かめればいいだけだ。

結果を箇条書きにまとめると、

1)子宮内のNK細胞はCD49などの特別なマーカーで特定できる。

2)このNK細胞が、子宮に着床しようとする胚のトロフォブラスト(胎盤へと分化する)の発現する組織適合性高原HLA-Gに刺激され、胎盤や胎児に効果がある増殖因子を分泌する。

3)NK細胞が遺伝的に欠損したマウスでは、胎児数が減り、また胎児の発達も骨格形成を中心に遅れる。

4)NK細胞の発生促進効果は、年齢の高いマウス内での胎児発生で強く見られる。

5)NK細胞欠損やNK細胞の分泌する増殖因子の欠損は、母親マウスに正常NK細胞を注射することで治すことができる。

6)体外受精後発生したヒト胚のトロフォブラストでもHLA-Gが発現しNK細胞を刺激できる。

7)人間の習慣性流産の患者さんの子宮では増殖因子を発現しているNK細胞が低下している。

になる。例えばNK細胞の活性化メカニズムや、胎児発生に関わるNK細胞の分化に関わる遺伝子など、もう少し複雑な実験が行われているが、詳細はいいだろう。

まとめ

最初ウケ狙いの研究かと思って読み始めたが、データははっきりしており、解釈もこれでいいように思う。私がレフリーの場合はやはり掲載を推薦しただろう。あとはぜひ人間の結果をさらに追求して、習慣性流産や、妊娠率を上げる方法の開発につなげてほしい

しかしNK細胞は侮れない。




こんな記事もよく読まれています



コメントを残す