西郷からナポレオンまで…年末年始に読みたい歴史書10冊(日経BizGate)



西郷隆盛の体調問題からストレスの原因まで描く

 今年の年末年始は日並びの関係でそこそこゆったりできそうだ。手軽なハウツーものではなく、じっくりアカデミックな本を繙(ひもと)いてはどうだろうか。西郷、ナポレオン、藤原一族……今年後半発行の書籍を中心に「あすのビジネスに役立つ歴史書」10冊を選んでみた。

(1)「西郷隆盛」(ミネルヴァ書房、税抜4000円)

 次期大河ドラマ主役の関連本がおびただしく出版されるのは歳末恒例のシーンだが、来年は日本人に人気の高い「西郷どん」とあって、この年の瀬はとりわけ書店売り場の占有率が高い。しかしその中で1冊を挙げれば本書を著した家近良樹氏の1冊だろう。数多い類書の中で、この著者の研究を参考にしなかったのは、ほとんどないのではないだろうか。それくらい1次史料を渉猟した研究レベルが段違いだ。

 ただ著者はいわゆる「西郷隆盛ファン」ではない。亡き西郷へのファンレターを書き綴ったかのような礼賛本とは一線を画している。初めての一般向け新書のタイトルが「孝明天皇と一会桑」だから、“薩長史観”と一番かけ離れた場所にいる研究者の1人だ。著者は「西郷ほど、死後多くの日本人の心を深く捉えた歴史上の人物はいない」と語る。その中でまだまだナゾの多い西郷の行動を解き明かそうとする。深刻な体調不良や人間関係のストレスまで踏み込んでいる。これから組織のリーダーになろうという方は、もう一度自分自身の覚悟を決めるためにも是非一読を。

(2)「ナポレオン時代」(中公新書、同960円)

 ナポレオン関連書籍は60万冊にも及ぶという。フランス史研究のアリステア・ホーン氏の訳書。英国人なので隣国・フランスへの適度な距離感と大久保庸子氏の巧みな和訳が心地よい。全ヨーロッパの覇権を握った大ナポレオンの政治・軍事的な業績中心ではない。ナポレオンの日常生活や人々のフランス社会の移り変わりに視点が及んでいる。

 描かれているのは法律の整備者、大学の再建者、卓越した都市計画者、建築王、ファッションリーダーとしてのナポレオン像だ。ナポレオンは部下がより地味な服を着て、よりモラルを守ることを望んだという。一方この時代には婚活の新聞広告も登場していた。本書のおトクな点は仏文学者の安達正勝氏による17ページの「解題」。ナポレオンは非常に現実的で、政権を握るやジャコバン派的な考えはきれいさっぱり捨てたという。しかし「よりよい社会を目指す革命精神は捨てなかった」としている。

(3)「藤原氏」(中公新書、900円)

 「大化の改新」を主導した中臣鎌足から平安期に至るまで藤原氏は息長く日本の権力中枢に地位を占めてきた。それだけでなく、昭和期の近衛文麿、平成の細川護熙もれっきとした藤原氏だ。血縁を結んできたのは皇室ばかりではない。中世以降は数々の大名家とも婚姻を続け、各地には武家としても散らばっていったという。現在は全国に3452の藤原氏族の名字があるそうだ。

 著者の倉本一宏・国際日本文化研究センター教授によれば、現在の日本人のほとんどは、藤原氏の血を引いているはずという。 著者は「藤原氏が権力をつかみ、後世にまで伝えていった様相の中に、日本の権力や政治、社会や文化の構造を解明するための手がかりがある」と指摘している。それは日本型組織の中で生き抜くためのヒントにもなるだろう。

(4)「悪の歴史 日本編」(清水書院、上下各2400円)

 日本史上のヒーローたちはとかく一筋縄ではいかない。武田信玄は父親も息子も失脚させたし、上杉謙信は同盟国をしょっちゅう裏切った。「泣くまで待とう」の徳川家康は、実際は自ら積極的に戦を仕掛け続け、名奉行とされた大岡越前守は江戸最初の暴動を招いた。明治の元勲、伊藤博文は放火の達人で、「平民宰相」原敬は暗殺された時にバンザイを叫びながら号外が売られるほど悪評だった――。本書では各時代の研究者が分担して、飛鳥時代の蘇我馬子から始まって大正期に2度首相に就任した山本権兵衛までの73人を取り上げている。編者は前編が関幸彦・日大教授、後編は大石学・東京学芸大副学長だ。

 日本史上最も人気者の1人である源義経でさえ、軍事的天才であっても政治的に無邪気であれば「悪」のカテゴリーに入ってしまう。その義経の名声を最大限に利用して実体以上の危険人物に仕立て上げ、非常時の権限をそのまま鎌倉幕府の職権に組み入れた源頼朝も当然「悪」に入る。権力者ばかりではない。初代坂田藤十郎、七代目市川団十郎、歌川広重といったアーティストも取り上げており楽しく読める。




こんな記事もよく読まれています



コメントを残す