軍事とIT 第206回 ソナー(10)被探知を避けるためのあれこれ



最近、戦闘機や爆撃機はステルス性をアピールする事例が多い。この場合のステルス性とは、レーダーによる被探知を困難にする、いわゆる対レーダー・ステルスを意味する。しかし実際には、「ステルス = 対レーダー・ステルス」ではない。その他の探知手段に対するステルス性向上手法もあり、ソナーも例外ではない。

アクティブ・ソナーによる探知を避ける

アクティブ・ソナーは、探信して、それの反射波を受信することで探知を成立させている。「音」と「電磁波」という違いはあるが、考え方はレーダーと似た部分がある。だから、アクティブ・ソナーによる探知を困難にする手法は、対レーダー・ステルスと似たものになってくる。

例えば、レーダー電波を反射しないように、レーダー電波吸収材、あるいはレーダー電波吸収用のコーティングを行う対レーダー・ステルス手法がある。それが対ソナー・ステルスの場合、無反響タイルとなる。要するに一種のゴム板で、これを船体の表面にびっしりと張り付ける。

ところが、言うは易く行うはなんとやら。無反響タイルを貼り付けてみても、運用を続けているうちに一部の無反響タイルがはがれ落ちてしまい、船体の表面が凸凹になることがある。

無反響タイルを早くから導入していたのは旧ソ連の潜水艦だが、たまに海面に浮上したところを西側諸国の水上艦や哨戒機に写真撮影されると、往々にして無反響タイルがはがれた凸凹の姿になっていた。これでは、音波の反射を増やしてしまうだけでなく、凸凹のせいでかえってノイズ発生源になってしまう。

海上自衛隊の現用潜水艦も無反響タイルを貼り付けているが、接着技術が進歩したのか、はがれ落ちた姿を目にすることはないようだ。

対レーダー・ステルス手法のもう1つの柱は、形状の工夫によって電波を明後日の方向に逸らしてしまい、発信源に返さない手法である。では、潜水艦における対ソナー・ステルスはどうかというと、側方から浴びる探信音が最大の問題になる。なぜなら、その方向の面積が最も大きいからだ。

ただ、船体は円筒形断面になっているので、側面がまるごと反射源になるとは限らない。第一、円筒形断面にしておかないと強度を維持できない。むしろ問題になるのは、垂直の面が大きいセイルのほうだ。

だから、最近の潜水艦は対ソナー・ステルスのために、セイルの側面を傾斜させて、上部に向かうにつれて幅を絞った形状にすることが多い。最上部に設ける艦橋(浮上航走時の見張りに使う)が狭苦しくなるが、被探知性の低減には代えられない。

海上自衛隊の潜水艦「たかしお」。側面を傾斜させて上部を絞ったセイルの断面形状がよく分かる。セイルの側面に貼り付けられた無反響タイルが分かるだろうか?

機雷にも似た話がある。形状の工夫やゴム製被覆によって機雷探知ソナーをかわそうと工夫しているものがあるが、具体例として、湾岸戦争時に有名になったイタリア製のマンタがある。上部を切り落とした円錐形なので、上方からの音波をそらす効果を期待できる。

海上自衛隊が使用している、マンタを模した訓練機雷。上部を絞った形状が見て取れる。もちろん実弾ではなく、これを海底に設置して探知・処分の訓練をするために使う

また、潜水艦の中には音響要撃受信機と呼ばれるソナーを備えたものがある。レーダーに対するレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)みたいなもので、ソナー音波を浴びていることを知らせて警報を発するのが目的。

贋目標と音響妨害

このほか、贋目標をこしらえる方法もある。レーダーで探知された時にチャフをまくのと似ているが、使う道具は違う。この種のデバイスが最初に登場したのは第2次世界大戦中のことで、ドイツ海軍のUボートが「ボールド」と呼ばれるメカを導入した。

「ボールド」は、直径10センチメートルの金属管にカルシウム水素化物を封入してあり、それを海中に放出する。すると、カルシウム水素化物が海水と反応して気泡を発生するので、それがソナー音波を反射して贋目標になる仕組み。敵艦のソナーが贋目標を捕捉してそちらを追っている間に、本物の潜水艦は三十六計を決め込もうというわけだ。

現代でも似たようなデバイスが使われているが、相手がアクティブ・ソナーを使用していなければ意味がない。

このほか、探信された時に、タイミングをずらして贋の反響音を返す手も考えられる。レーダーに対する妨害でも、同様の考え方によって「ウソをつく」手法がある。

例えば、本来なら探信して10秒後に反響音が返ってくるはずのところ、贋の反響音をもっと早く送信する。すると、探信した敵艦にとっては本来より早いタイミングで反響音を受信することになるので、実際よりも近い位置に目標がいる、と勘違いする効果を期待できる。

ただしレーダーの場合と同様に、発信源が「この反響音は自分が出した音波と違う」と気付いてしまっては具合が悪いので、似通った音波を出す必要がある。もちろん、贋音波を出すタイミングやその方向も、キチンと計算する必要がある。

それならむしろ、潜水艦とそっくりの音を出す自走式のおとりを射出するほうが確実かもしれない。ただしこの方法、かさばる上に費用もかかる難点がある。

パッシブ・ソナーによる探知を避ける

では、パッシブ・ソナーはどうだろうか。こちらは妨害しようと思ってもできないし、そもそも聴知されている側は、誰がどこで聞き耳を立てているかがわからない。だから、パッシブ・ソナーへの対策としては、自身が発する音を抑制するぐらいの手段しかない。

もっとも、その「自身が発する音」は多様である。機関本体が発する音はもちろんだが、その機関によって回転するスクリューも騒音発生源になる(だから、スクリューの形状や製造法は秘匿度が高い)。もちろん、ポンプや空気圧縮機など、さまざまな機械類も騒音の発生源となる。

また、先に無反響タイルがはがれ落ちる話でも触れたように、船体の表面が凸凹していると、これも騒音の発生源となる。潜水艦では、出港して用済みになった繋留機材をクルンと反転させて格納してしまい、表面を平らにする、なんていうことまでやっている。

そのほか、艦内で人が暮らすことに起因する音もある。人が歩けば靴音が出るし、調理場で鍋を五徳にぶつければ音が出る。トイレで用を足したり、その後で流したりすれば音が出る。シャワーはいうに及ばず。

そういう諸々の音を抑え込むことも、ソナーによる探知を避ける手段の1つ。「特別無音潜航」の指令が出たら、本当に音の1つも出せなくなるらしい。そんな時にトイレに行きたくなったらどうするんだろう。




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