軍事とIT 第212回 光学センサー(3)EO/IRセンサーとレーザー目標指示器の一体化



前回はロッキード・マーティン社製のLANTIRN (Low Altitude Navigation and Targeting Infrared for Night)を題材にして、EO/IRセンサーの具体的な利用事例を紹介した。今回は、そのLANTIRNの片割れである目標指示ポッドの機能について、もうちょっと詳しく書いてみよう。

目標指示ポッド(ターゲティング・ポッド)

この種の製品を現在では、目標指示ポッド(ターゲティング・ポッド)と呼んでいる。LANTIRNは本来、航法ポッドと目標指示ポッドを組み合わせてワンセットとしていたが、最近は冷戦末期と違って低空侵攻が主流ではなくなったので、目標指示ポッドだけで済ませることが多くなった。そして、目標指示ポッドは新製品がいろいろ出ているが、航法ポッドは昔のままである。

独立したポッドになっている製品なら、既存の機体に後付けできる利点がある。現行の製品例としては以下のものがある。

  • AN/AAQ-33スナイパー(ロッキード・マーティン)
  • AN/AAQ-28 LITENING(ラファエル / ノースロップ・グラマン)
  • AN/ASQ-228 (Advanced Targeting Forward-Looking Infrared、レイセオン)

これらのうち、航空自衛隊のF-2はスナイパーを搭載することになっている。そのスナイパーATPを紹介するロッキード・マーティン社の公式動画がこれ。「赤外線映像の鮮明さは可視光線に見劣りする」とはいうものの、「これだけ鮮明に見えるのか」とビックリする。動作原理上、白黒なのはどうしようもないが。

余談だが、赤外線センサーの映像をディスプレイ装置の画面に表示する時は、熱い部分を黒く表示する「ブラック・ホット」と、熱い部分を白く表示する「ホワイト・ホット」の切り替えが可能になっているのが通例で、好みに応じて使い分けられる。

一方、同様の機能を機体に内蔵してしまった例としては、AH-64アパッチ攻撃ヘリのAN/ASQ-170 TADS(Target Acquisition Designation Sight)や、F-35のAN/AAQ-40 EOTS(Electro-Optical Targeting System)がある。

AH-64のTADSは射手が目標の捕捉・指示に使用するものだから、赤外線センサーとレーザー目標指示器を一体化したものが上下・左右に首を振る。それと併設する形で、パイロットが夜間でも視野を得られるようにするための赤外線センサー機材・AN/AAQ-11 PNVS(Pilot Night Vision Sensor)があり、そのPNVSとTADSを一体化して機首に取り付けてある。

AH-64の機首。上に付いているのがパイロット用のPNVSで、左右に首を振る。下にある円筒形の物体が射手用のTADSで、上下・左右に首を振る。レーザー目標指示器はTADSにだけ付いている

F-35の場合、EOTSは機首下面、首脚収容室扉の前側についている。F-35はステルス性を備えているから、レーダー探知を避けるために低空侵攻する必然性は低い。すると、上空から目標を見下ろすことを前提にできるから、下面に付いていても差し支えはない。

F-35Bの機首側面。首脚収容室扉の前方(写真では右側)・下面に張り出しているのがEOTS

EO/IRセンサー・ターレット

旋回・俯仰が可能なターレットとして製品化、これを機体に固定設置する事例も多い。一般に「EO/IRセンサー・ターレット」というが、電子光学センサーや赤外線センサーだけでなく、レーザー目標指示機も内蔵するのが普通。

映画『ドローン・オブ・ウォー』に登場したMQ-9リーパーも、そんな機体のひとつ。MQ-9みたいな無人偵察機では、機首や胴体の下面にターレットをぶら下げることが多い。ヘリコプターだと、視界を確保するために機首に取り付ける事例が多いようだ。

レイセオン、FLIRシステムズ、L-3コミュニケーションズ傘下のL-3ウェスカム、IAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)、エルビット・システムズ傘下のEl-Opなど、EO/IRセンサー・ターレットを手掛けているメーカーは多い。FLIRシステムズのごときは、製品がそのまま社名になったようなところがある。

ちなみに、ターレットといっても築地市場の中を走り回っている貨物運搬車とは関係なくて、turret、つまり「砲塔」が語源。旋回・俯仰が可能なところが共通しているので、この言葉を使うようになったと思われる。ただし、撃つのは砲弾ではなくレーザー・ビームだが。

旋回・俯仰を可能にすることの意外な利点は、使わない時にセンサー窓を後ろ向きにしたり、ターレット本体で隠れる向きにしたりして、保護できること。保護用のカバーや蓋を別途用意する必要がないので合理的だ。

MH-60Rオーシャンホークの機首に取り付けられた、AN/AAS-44C(V)センサー・ターレット。機体下面に吊るす付け方が多いが、MH-60Rでは胴体下面に取り付けることができず、上下をひっくり返して機首に付けている。センサー窓が露出した状態で展示していた珍しい事例

電子制御を併用することの利点

さて。ここで「軍事とIT」らしいところに立ち返って、「どうして電子制御を併用するのか」について考えてみたい。もうちょっと細かく書くと、映像データをデジタル化してコンピュータ処理することの利点である。

まず、デジタル・データにすれば記録が容易になる。それだけでなく、伝送もしやすい。無人偵察機で一般化しているように、EO/IRセンサーの映像を無線で送れば、動画による実況中継が可能になる。

昔だったら、偵察機が写真を撮ってきたら、まずフィルムを取り出して現像と焼き付けを行わなければ結果がわからなかった。ましてや、口頭や文字情報による報告では、現場の状況は受け手が自分でイメージするしかない。

ところが動画の実況中継となると、現場で何が起きているかをいながらにして観られるわけで、インパクトはまるで違う。バルカン半島にRQ-1プレデターUAVを持ち込んで動画の実況中継を初めて行った時に、軍や政府の幹部らが、その動画に夢中になったのも宜なるかな。

また、デジタル・データであれば、その過程で鮮明さを増す処理を行ったり、伝送の負担を軽減するために圧縮を行ったりといったことも容易だ。H.264をはじめとして、民間で使われている動画コーデックが軍用のEO/IRセンサーで使われている事例はいろいろある。もちろん、暗号化もしやすい。

さらに、GPS(Global Positioning System)による測位機能を併用すると、もっとすごいことになる。GPSを使えば緯度・経度・高度・移動速度がわかる。そして、現在位置を基準にしたEO/IRセンサーの向きがわかれば、目標がどちら側にあるかがわかる。

レーザー測遠機で距離を測れば、目標までの距離もわかる。現在位置に加えて相対方位・相対距離がわかれば、目標の緯度・経度も計算できる。目標の緯度・経度がわかれば、レーザー誘導の爆弾やミサイルだけでなく、GPS誘導の爆弾やミサイルも使えるようになる。

今時の目標指示ポッドは大抵そうした機能まで備えている。それどころか、EO/IRセンサーの映像の品質が上がってきたので、偵察機の機能まで兼ねられるようになってきた。

もちろん、本職の偵察機の方が性能のいい機材を搭載しているが、「画像の品質は、そこそこでもいいから」ということなら、目標指示ポッドを積んだ戦闘機に「ついでに偵察もやってくれ」と頼むことができる。




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